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二紀会へようこそ

V I S I O N 巻頭インタビュー

創立7 6 年二紀会、新理事長に就任

“ いま動く 次のステージへ”

洋画家 南口清二(76)

ただ絵を描くだけならひとりでもできる。けれど、多くの作品群を積み上げるためには、創作という長く孤独な作業を支えてくれる仲間の存在が必要になることもある。二紀の理念の上に立って、ここから二紀に恩返ししたいと思っています。―5 月26 日新理事長に就任した南口清二さんに、これからの抱負などお話を伺った。

─このたびは二紀会の理事長ご就任おめでとうございます。今日はこれからの抱負など、お話いただければと思います。

南口 どうぞよろしくお願いいたします。

新理事長就任─今思うこと

─山本貞先生からバトンを渡されて、いま、どんなお気持ちでしょう?

南口 私も含め二紀の会員はみな二紀が大好きなんです。山本先生は「まずやってみる、失敗したらその時考えれば良い」というスタンスで、26年という長い歳月にわたって、二紀を導いてくださった。おかげで、私たちは自由にのびのびと活動することができました。

 そんな山本先生の後任です。いくら二紀が好きだからとはいえ、「はいそうですか、それじゃあ」と気軽に引き受けられるはずがありません。二紀会の存在としての重さとその意義の再確認、簡単に言葉になるものではないのです。絵画・彫刻で1000名近い出品者が作品を持ち寄り、「合わせ」語り合う『場』であり、多くの鑑賞者が共鳴され、楽しんでいただける『空間』としての二紀展をさらに豊かに創り上げたと思っています。

 二紀会の仲間たちは、そのためには本当に頼りになります。あたらしい常務理事とともに、理事に若手を増やしたことも大きかったですね。従来の発想を超えたエネルギーが行動力となっています。

審査について

─現在の会員数はどのくらいいらっしゃるんですか?

南口 委員・会員で278名、準会員が306名です。うち委員の110名ぐらい(絵画・彫刻)が審査員を務めています。

─ 大きな団体ですから、意思決定や審査などは大変でしょうね。

南口 全国に37支部があり、第76回展に向けて支部研究会、支部展を開催しています。そこに本部から講師として委員を派遣し現場で語り合い、支部の状況・各作家の努力の成果が理事会に報告されます。事前審査ではありませんが、この報告が様々な角度からの審査に影響を与えてくれます。一般出品作についても審査員のさまざまな意見が審査に反映されます。多くの課題は、理事や事務局長に集約され、事務局長が資料を整理し理事会で論議となり決定されてゆきます。

〝いま動く次のステージへ〟について

─二紀展のテーマはどういったものなんでしょう?

南口 わたしたち二紀は、作品を《合わす》《語り合う》とし、互いの個性を出し合い、それぞれ自在に展開しながら、最も有効な着地点を探し出すことに重心を置いてきました。いま美術団体が好調といえる状態でないのは確かです。美術を含め芸術の世界は常に山あり谷ありです。かなり以前に〝もう美術は終わった〟など騒がれた時もありました。日本の公募団体としての在り方が問われ続けています。しかし私たちの『二紀会主張』が今こそ輝いています。

・美術の価値を流派の新旧に置かず、皮相の類型化を排する。

・具象、非具象を論じない。流行によって時代を誤ることを極力避ける。

・真に新たな価値を目指し、創造的な個性の発現を尊重する。

・情実を排しつつ、新人を抜擢し、これを積極的に送ることに努める。

 二紀会発足時の主張の新鮮さが、今こそ明るく照らし出してくれます。

 だからこそ 今、何をすべきか?何ができるか?〝いま動く 次のステージへ〟をスローガンとして探っていこうとしています。

美術界全体の課題解決のために伝えたいこと

南口 時代のあらゆる情報は驚くべきスピードで拡大し伝わり、忘れ去られてゆく。科学や情報の一層の進展が美術におおきな影響を与えることは事実でしょう。しかし一部の主張のみが流行として美術界を席巻してはならないのです。私たちは自分自身の創造のエネルギーで答えてゆくしかないのです。

 団体展の良いところは言うまでもなく多くのいろんな人が集まるところにあります。団体だからこそできることにもう一度目を向けたいのです。芸術の存在理由・芸術の根源を探り、可能な限り多くの鑑賞者を育ててゆきたい。そのための手立てをおおいに研究しましょう。

 同時に、戦後日本を支えてきた、『現代』世界システムのゆらぎとその反映としての転換点が今であり、現代美術として求められている。それが何なのか。21世紀への問いかけをうけとめなければならないのも事実です。

 ただ一つ言えることは、「どんな時代であっても人間への興味、関心・自然の向うにあるものへの共鳴」を信じる人たちがそれぞれの立場で発信・発言し続けてきたということです。人間への好奇心とさらなる自然への畏敬。これらが、近現代芸術をつくりあげてきた芸術家たちの根本にあったものだと私は思います。自由な追求のみが保証されねばならないのです。« 芸術» というものの存在の可能性を追求し続けた歴史を信じたいのです。

多彩な才能を活かす

南口 美術団体は多彩な才能、経験の持ち主の集まりでもあるのです。ひとりひとりの人生そのものが作品となって表現されてくる。楽しい会です。単純に周りの常識的なものや流行の型に嵌らないものこそ大切にしたいのです。じっくりと摺り合わせることです。作家集団としての会の運営にもその多くの経験が本当に役に立ってくれるのです。ありがたいことです。

個人的な話題です

南口 私はイタリア留学以降ずっと「光と影」をテーマに創作に取り組んできました。

 カラヴァッジョが研究テーマでした。彼の絵の中の光の表現は過去であり、現在であり、未来を描いているのです。カラヴァッジョの深い陰影の中に単なる闇でなく多くの変化があり、その魅力こそが光の美しさ、光の輝きと比例していました。そんな表現が大きな目標でした。

─具体的にはどのようなことなんですか?

南口 何を描くか?ある種の『手ごたえ』といえるものです。いま描いている風景は、かつて見た風景であり、あの懐かしい風景であり、今イメージされている風景です。ここはどこですかと聞かれてもどこでもありません。と答えるしかないのです。しかしあの風景なのです。絵に描き出される風景は創作されたイメージです。しかし私にはリアリティがあるものとして『手ごたえ』を作り出したいのです。

 風景や人物を前にして想像し、それを描くことの創造があり、究極的な構想へと進みます。これがまた繰りかえされ統合へと向かうのです。

 実在している静物や自然を描いているようで、その空間の中にもうひとつ別の空間を構成したいのです。平面構成であり、多次元構成によって多様な光による空間を創り出したいのです。見る人に何かが伝われば喜びです。

海外へ出ていく

南口 二紀会では2018年6月に台湾で『二紀会選抜臺灣展』を開催しました。臺灣国立芸術大学の全面的なご支援で約400点近い作品を持っていきました。団体展は「よしやるぞ!」となればすごいエネルギーが生まれるものです。台湾という地域の人々のすばらしさが大きな要因ですが、日本との美術に関しての認識と興味・関心の圧倒的な違いがショックでもありました。

 国際状況がかなりむずかしい時期ではあります。いずれ海外へ出ていく時期がくると感じています。

若い作家たちがすこしでもアジアをはじめ諸外国に興味と関心が強くあるならば実現したい課題です。しかし莫大な輸送費や経費、開催国との交流、会場探し等課題は多いです。台湾展のような幸運が訪れることを願いつつ機会を探りたいものです。

─二紀会のご発展、そして南口先生のこれからの活動を心から応援しています。今日はどうもありがとうございました。

「美じょん新報」第288号 2023年9月20日発行(発行 ビジョン企画出版社)

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