BACK                   ATELIER VEGA             2003.1.15更新

  

NO9<モノローグ>

修復実習(剥離部分に注射器で接着剤を注入)

NO9<モノローグ>
画家は絵の中で悪戦苦闘をつづけながら自己表現を繰り返していきます。それに反して修復家は自分を無にする事から始まります。オリジナルを保存する事に大変な時間と労力を使い修行僧のような日々を送る人達に哲学を感じました。絵を30年描き続けてきた私が、今なぜ修復に心引かれるのか自問自答し続けた80日間でした。書籍の中だけで想像していた修復と現地で学ぶ修復学は様々な点で大きな違いがありました。先ず何より精神面での違いを強く感じました。それは宗教心の違いなのか、はたまた母国の文化を愛する情熱の違いなのか?ブカレスト美術大学・壁画科の教授と学生達は、少ない文化予算の中、なみなみならぬ情熱とプライドを持ち、真摯な態度で時間と手間のかかる修復作業を実に楽しそうに行っていました。私は不遜にも「修復家の生き甲斐はなんですか?自己表現したくなりませんか?」と聞いてしまいました。にっこり微笑まれ、モハヌ教授は答えて下さいました。19世紀中頃から伝わる修復理念の一節です。「修復、保存に携わる者は、より良いものを探求し続け、本物で美しく価値あるものを保存し、過去に学び得られたものの記念として、遺産を生命あるものとして保つ努力を続けなければならない。現代生活の質を高め豊かにするための修復保存という仕事は、しばしば献身的努力が必要とされる事が多い・・・。」
大学の設備のほとんどは手作りですし、経済的に豊かな生活をしてるとは思えないのですが、多くの人が2カ国語を話し、イタリアなどへの留学経験者も多数おりました。極東からやってきた年上の留学生?を壁画科の一員として暖かく迎え、真剣に指導して下さいました。3ケ月間の苦行の産物をトランクに詰め12月27日、一時帰国致しました。
私にとり「修復の哲学」を理解するにはもう少し時間が必要のようです・・・・。
ふたたび、大学に戻り研鑽を重ね、モルドバ地方のバリネシティ修道院・修復現場でゆっくりと自分を見つめてみたいと思っております。

又、私の作品が和紙と顔料を使って制作されている事に、大学側が興味を持ち4月中旬、ブカレスト美術大学・付属美術館で、学長招待による個展が開催できることになりました。

       2003年 1・10 佐藤 幸代