No4<大学授業・前期終了>
11月4日。ルーマニア正教美術におけるもう一つの柱、イコンについての講義が開始されました。イコンの重要な特徴は、それが絵の具の塗られた単なる板ではなく、それ自体が生命を持つ聖なる存在とみなされ、敬虔なる画家、修道士が祈りと断食で身を清めた後、聖別された筆や絵の具を用いて描き、聖なる人物は正面を向き写実的であってはならず、イコンは客観的に鑑賞する芸術作品ではなく神の似姿なのである。クリスティーナ先生によるスライドを使っての講義の後、ビザンチン画法、西洋画法の実技に入りました。まず板下地作りは膠で溶いたカルクを1日1層塗るスピーードで10回塗り重ねる時間と慎重さが要求される仕事でした。その上に彫り込み、盛り上げ、打刻、金箔張り、着色を駆使し技法見本ボードが仕上りました。イコン最終授業は国立美術館での実物を見ながらの研修でした。流暢な日本語を話す浮世絵研究官のギュル氏も加り有意義な一日でした。
11月25日。フレスコとイコンの基礎実技を学びましたので、いよいよ本筋の修復に入りました。例によってモハヌ教授による、スライドを使った修復概論と実物の壁画破片を分析しての研修が終了し、完璧主義のマリア先生による実技指導が開始されました。レプリカの題材を使いオリジナルと同様に修復してゆきます。まず破損した壁の部分をオリジナルと同素材で塗り重ね埋めてゆきます。そのモルタルが寒さのせいもあり亀裂が入り4回目でやっとOKが出ました。剥離部分は固定材を注入します。その時、バンソウコがわりとして和紙が大きな役割を果たしていました。着色は近くで見るとオリジナルと区別がつくように国際的な取り決めによる技法があります。
○ 色が少しはげている部分は薄目の色を塗ります。
○ 下地だけが残っている部分は点描。
○ 下地から修復した部分は線描。
水性絵の具での細心の作業と同時に全体的な調和が求められます。あまりの細かさと忍耐のいる仕事に疑問すら感じましたが、クリーニング、トリートメント、ペインティングと作業が進むにつれレプリカの修復画が愛おしく思われ、美しく蘇ってゆく姿に喜びを覚え始めました。修復は正に時の蘇生なのかも知れません。
12月19日。真っ白な銀世界の中、今日は前期授業最終日です。授業を早めに切り上げてクリスマス・パーティーが開かれました。ツリー、リース、パン、クッキー、果物の並ぶテーブルにキャンドルが灯されカルガリーツァを含む1年生のルーマニア・クリスマスソングで始まりました。ワイン、ツイカを飲み交わし修復科50人の教授、学生が集いパーティーが最高潮に盛り上がった時、モハヌ教授の一声で中庭での雪合戦が始まりました。教授、学生が雪にまみれ笑い転げながらの終業式です。純粋で一生懸命な学生のみなさん。修復ファミリーに快く受け入れて下さった教授陣の先生方、本当に本当にムルツメスク!
|